第169話

個室で誰かが言った。「弘次の歓迎会、瑛介は来るか？」

「来るでしょう。昔の親友だから」

「どうしてまだ来ないのか？」

そう、どうしてまだこないのか？

奈々は無意識に携帯を見た。出発する前に瑛介にメッセージを送って、どこまで着いたかと尋ねたが、返信がなかった。彼が運転しているので返信できないのではないかと推測した。

しかし彼女はもう到着した。時間が経ってしまったが、彼がなかなか来ないし、返信もない。

奈々は少し懸念した。

携帯を持っている奈々を見て、親友が何か企んでいるようで、皆の前で言った。「奈々、瑛介に電話を掛けてみたらどう？奈々の電話なら、必ず受けるよ」

それを聞いて、奈々は無意識にその親友を見た。親友は奈々に目を配って、電話を掛けるように示した。

実は奈々は相手の意図を知っている。ただ皆の前で彼女と瑛介の関係を証明したいと思っているんだ。

しかし.......出発する前に送ったメッセージに返信がなく、もし今電話を掛けたら、瑛介は受けるか？

だから電話を掛けるのは決していいことではない。もし瑛介が受けなければ、自分が恥をかくことになる。

そう考えると、奈々は唇をゆるめた。「もういいの。こんな時間だし、エレベーターに乗ってるか、あるいは車を運転してるかも。電話を掛けても多分受けないでしょう」

残念ながらみんなは好奇心が湧いてきた。

「電話を掛けてみてください」

「そうだね、奈々。瑛介の心の中でのあなたの重要性は皆が知っている。あなたの電話なら、車を運転していても必ず受けるから」

そう言って、皆が電話を掛けるようと騒いだ。

奈々は少し困っているが、考えながら、無意識に向かいの弘次を見た。

弘次はまるでこの騒ぎに気づかず、携帯の画面を見つめている。

「奈々、電話を掛けて。私たちも瑛介の声を久しく聞いていないの」

「そうよ、奈々。私たちの好奇心を満たすために電話をしてもいいから」

好奇心を満たすために？

奈々は心の中で冷笑した。何様のつもり？好奇心を満たすって。

瑛介のためじゃないと、このパーティーに来たくなかった。

奈々は笑って何かを言おうとしたとき、個室のドアが開けられた。

皆が振り向いてドアの方を見た。

黒いコートを着た瑛介が入ってきた。後ろに同じくコートを着た弥生がいて、彼女のコートはライトベージュ色で、腰に届